あらすじ
『リカ』で作家デビューを果たした五十嵐貴久は、編集者・斎藤から事故物件ホラーを依頼される。だが取材予定の女性が交通事故に遭い、原因不明の昏睡状態に。一方、五十嵐のもとにはリカを名乗る不気味なメールが届き始める。単なる悪戯か、小説から滲み出た悪意なのか――。当時の日記をもとに異様な実体験を綴る、戦慄のノンフィクションノベル。
感想
なんだろう。
最初から最後まで、ずーっと嫌な感じがする。
別にずっと何か恐ろしいことが起きているわけじゃない。
でも、常にどこかに不穏な空気が漂っている。
この「何か嫌なことが起こりそう」という感じを作るのは、やっぱり五十嵐貴久は上手いなと思う。
『リカ』シリーズを読んできたからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。
「この先、絶対にロクなことにならないぞ」
と思いながら読んでしまう。
しかも、本作が怖いのは、これが著者自身の体験をもとにしたノンフィクションだということ。
ここがもう、めちゃくちゃ怖い。
「これは小説だから」と思って読んでいるのと、「実際にこういうことがあった」と思って読むのとでは、怖さが全然違う。
フィクションなら、どこかで現実との境界線を引ける。
でも、実際に作者が体験したことだと知ってしまうと、
「こういう人、本当にいるんだよな……」
となる。
そして、これを読んで改めて思った。
やっぱり「人が怖い」。
幽霊が出てくるホラーも怖いけど、生きている人間のほうが何をするか分からない。
しかも、人間は普通の顔をして普通の生活をしながら、こちらの想像を超えることをやってしまう。
そこが怖い。
さらに怖かったのが、全部がきれいに解決するわけではないところ。
「はい、これで事件解決!」
という感じじゃない。
分からないことは分からないまま残っている。
その感じが、逆にものすごくリアルだった。
考察
この作品で僕が「リアルだな」と感じた理由は、物語の中にある「空白」なんじゃないかと思う。
普通のミステリーなら、最後には謎が解かれて、読者にも全体像が見える。
もちろん、それが面白さでもある。
でも現実の出来事って、そんなに都合よく全部が分かるわけじゃない。
誰が何を考えていたのか。
なぜそんな行動をしたのか。
本当は何が起きていたのか。
当事者でさえ分からないことが残る。
本作には、その「分からない部分」が残されている。
だからこそ、読後に妙な引っ掛かりが残る。
「あれは結局どういうことだったんだ?」
と考えてしまう。
でも、それでいいんだと思う。
むしろ、その答えの出ない部分が、この作品の怖さにつながっている。
すべてが説明されてしまえば、「これは作られた物語なんだ」と安心できる。
でも、分からないものが残っていると、
「もしかしたら現実でも、こういうことがあるんじゃないか」
と思ってしまう。
そして、そこから恐怖が現実のほうへ飛び出してくる。
ホラーというと、幽霊や怪物のような「人間ではないもの」を想像しがちだけど、本作で一番怖いのはそこじゃない。
怖いのは、人間の執着や思い込み、そしてその感情がどこまで暴走するのか分からないこと。
普通の生活をしている僕たちのすぐ隣にも、理解できない人間がいるかもしれない。
そう考えると、幽霊よりもよっぽど怖い。
だから、この作品の恐怖は「何かが襲ってくる怖さ」というより、
「人間そのものが怖い」
というところにあるんじゃないかな。

