あらすじ
複数の不審死が発生した。
亡くなった人たちに共通していたのは、身体に「暃」という文字が残されていたこと。
この文字は「幽霊文字」と呼ばれるもの。JISコードで「5A73」と登録されているが、読み方も意味も分かっていない。
事件を担当する刑事の山本と早川は、亡くなった人たちの関係性や、「暃」という文字が残されていた理由を探っていく。
しかし、調べれば調べるほど、謎は深まっていく。
そんな中、二人の前に現れたのが韮崎という人物だった。
果たして「暃」は何を意味するのか。そして、次々と起こる不審死の真相とは――。
一文字をめぐる謎が、思いもよらない方向へと転がっていく。
感想
この作品、ジャンルは何と言えばいいんだろう?
ミステリー……なのか?
いや、ミステリーとして読んでいたはずなんだけど、途中から何とも言えない気持ちになってくる。
ホラーっぽい要素もある。
でも、ホラーだと思って読み始めると、それはそれで違う気がする。最初から幽霊や怪奇現象を期待して読むと、きっと面白さが変わってしまうんじゃないかな。
とにかく、ひと言では説明しにくい作品だ。
そんな中で、僕が気になったのが刑事の山本と早川のコンビ。
この二人、いいじゃないか。
事件を追いながら「暃」という文字について考え、あれこれ推理を巡らせる。二人のやり取りを読んでいると、事件そのものとは別に、このコンビを中心にした物語も読んでみたくなる。
事件が解決したあと、二人がどんな事件を追うのか。そもそも、普段はどんな仕事をしているのか。
そんなことまで想像してしまった。
そして、もう一人忘れてはいけないのが韮崎。
こいつがまた強烈なんだよな。
登場するだけで、物語の空気が変わる。もっとこの人物のことを知りたいと思わせる魅力がある。
山本と早川の刑事コンビ編も読みたいし、韮崎を主人公にした物語も読んでみたい。
本筋の事件だけでなく、登場人物たちにも興味を持たせてくれるところが面白かった。
それから、読んでいるうちに、どうしても気になって仕方がなくなったのが「暃」という文字。
……これ、タトゥーで彫りたくなった(笑)。
意味が分からない。読み方も分からない。
なのに、妙に気になる。
この文字が何なのか、何を意味するのか。考え始めると、どんどん深みにハマっていく。
そして、最後の章。
いや、これはすごい。
ここまで積み上げてきたものを、最後にそう回収するのか。
正直、予想していた方向とは違った。
最後まで読んで初めて、「ああ、そういうことだったのか」と思わされる。あの終盤の展開は、本作の最大の見どころだと思う。
ただ謎を解くだけじゃない。最後に作品そのものの見え方まで変えてしまう。
とんでもないものを読んでしまった。
考察
本作を読んで考えさせられたのは、「意味が分からないものに、人間はどこまで意味を与えようとするのか」ということだ。
「暃」という文字には、はっきりとした読み方も意味もない。
それなのに、身体に残された文字を見た人間は、そこに何か理由があるはずだと考える。
事件と関係があるのではないか。
亡くなった人たちを結びつける何かがあるのではないか。
そもそも、この文字は何を伝えようとしているのか。
意味が分からないからこそ、いろいろな可能性を考えてしまう。
そして、一度考え始めると、簡単にはやめられない。
これって、文字に限った話ではないと思う。
人間は、理解できないことに出会うと、どうにかして納得できる答えを探そうとする。偶然の出来事にも理由を見つけたくなるし、説明のつかない現象にも、自分なりの意味を与えたくなる。
でも、そもそも本当に意味があるのかどうかさえ分からない。
そこが、この作品の面白いところなんじゃないかな。
そして、最後の章で明かされる真相によって、読者がそれまで積み上げてきた推理も、大きく揺さぶられる。
僕たちはミステリーを読んでいると、作中に散りばめられた情報をつなぎ合わせて、正解にたどり着こうとする。
作者が用意した謎には、きっと論理的な答えがあるはずだ、と。
ところが本作は、その読者の構えそのものをひっくり返してくる。
ミステリーとして読めばいいのか。ホラーとして読めばいいのか。それとも、そんなジャンル分け自体が意味を持たないのか。
読み終えたあとも、そんなことを考えてしまう。
小説には、読者が納得できる答えを用意することが求められるのかもしれない。
でも、答えを与えられることだけが読書の面白さではないはずだ。
読者を考えさせ、迷わせ、最後にはその考え方すら揺さぶる。
『5A73』は、そんな読書体験そのものを仕掛けにした作品なのかもしれない。
読み終わっても、あの文字が頭から離れない。
「暃」。
……やっぱり、タトゥーにしたいな(笑)。

