あらすじ
澤村伊智の『ししりばの家』は、比嘉姉妹シリーズの一作。ある家をめぐって起こる不可解な現象と、そこに潜む怪異を描いた長編ホラーである。日常の中に少しずつ異常が入り込み、やがてその家にまつわる恐ろしい秘密が明らかになっていく。シリーズおなじみの比嘉家の人物たちも登場し、怪異と向き合うことになる。
感想
まず驚いたのが、まさかこの作品が長女・比嘉琴子の話だったこと。
これまでのシリーズで描かれてきた琴子とはまた違った一面を見ることができ、「ここで琴子の物語が来るのか!」とかなり意外だった。
そして本作で強烈に印象に残ったのが「砂」の描写。
砂が単なる小道具ではなく、そこに存在するだけで不快感や恐怖を生み出している。ザラザラとした感触や、どこにでも入り込んでくるような嫌悪感が文章から伝わってきて、かなり絶妙な描写だったと思う。
読んでいるうちに、砂そのものが怖くなってくるような感覚があった。
考察
『ししりばの家』で特に興味深いのは、「家を守る」という役割と「怪異」が表裏一体になっているところだと思う。
家は本来、人間を守る場所である。
外からの危険を防ぎ、安心して暮らすための場所。
ところが本作では、その「守る」という役割そのものが変質していく。
守るためのものが、いつしか人間を脅かすものになる。
この反転が、本作の恐怖の大きな部分を占めているように感じた。
また、砂の存在も非常に象徴的だ。
砂は一粒一粒なら取るに足らないものなのに、大量に集まれば空間を埋め尽くし、人間の生活を侵食していく。
その「少しずつ侵入してくる」という性質が、怪異の恐ろしさと非常によく噛み合っている。
そして比嘉琴子という人物を描いたことも、シリーズ全体を考えるうえで大きい。
これまで断片的にしか見えていなかった琴子の存在が、本作によってより立体的になった。比嘉家の人間がなぜ怪異と関わり続けるのか、その背景を考えるきっかけにもなる。
『ししりばの家』は、単に「怖い家」の話ではない。
家族、血筋、守ること、そして怪異との共存という、比嘉姉妹シリーズの根底にあるテーマを掘り下げた作品だと思う。
そして何より、砂の描写が素晴らしい。
ただ、一つだけ残念だった点がある。
それは「狛犬」を犬として描いていること。
狛犬研究家の僕に言わせてもらえば、狛犬は犬ではない。
ここはかなり重要なポイントなので、個人的には実に残念だった。
とはいえ、比嘉琴子というシリーズの重要人物を掘り下げながら、独特の怪異を描いた作品として、かなり楽しめた一冊だった。

