あらすじ
恋人の美紀を事故で亡くした主人公。しかし、その死を周囲には隠し、彼女は今も生きていると嘘をつき続けている。
そんな主人公の手元には、黒いビニール袋に包まれた謎の瓶がある。彼はそれを持ち歩きながら、周囲の人間に美紀との幸せな日々を語る。
愛する人を失った現実を受け入れられない男の、喪失と執着、そして狂気を描いた物語。
感想
中村文則の2作目となる本作。
とにかく暗い。もう、ひたすら暗くて陰鬱。読んでいて気持ちが沈んでくるような作品だ。
中村文則の作品には暗いものが多いけど、その中でも本作はかなり濃厚な陰鬱さを感じる。物語全体を覆っている重苦しい空気が、読み終わったあともずっと残っている。
そんな中、あとがきにあった「僕はこの『陰鬱』と共に生きているといっていい」という言葉が、ものすごく印象に残った。
ああ、なるほど。そういうことなのか。
作品の中に漂う暗さは、単なる演出ではなく、作者自身の中にあるものなのかもしれない。そう思うと、この作品の見え方も少し変わってくる。
そして、もうひとつ気になったのが、主人公の「自分を常に演じている」という感覚。
これが妙にわかる気がするんだよなぁ。
人と接するとき、相手に合わせて自分の見せ方を変えたり、本当の自分とは少し違う自分を演じたりすることって、誰にでもあるんじゃないだろうか。僕自身にも、そんな一面があるように思った。
もちろん主人公の抱えているものとは全然違うんだけど、この感覚には妙に引っかかるものがあった。
考察
本作で描かれているのは、愛する人を失った悲しみだけではないと思う。
主人公は美紀の死を受け入れず、彼女が生きているという嘘を周囲につき続ける。普通に考えれば、現実から逃げているだけにも見える。でも、その嘘を重ねることで、彼は自分が壊れてしまわないようにしているのかもしれない。
人は耐えられない現実に直面したとき、必ずしもそれを正面から受け止められるわけじゃない。事実を認めることよりも、自分が信じたい世界にとどまることを選んでしまう場合だってある。
ただ、その世界を守るためには、さらに嘘を重ねなければならない。嘘が自分を守るためのものだったはずなのに、いつの間にか自分自身を縛るものになっていく。
タイトルの『遮光』も印象的だ。
光を遮るということは、見たくないものを見ないようにすることにもつながる。主人公にとっては、美紀の死という現実がまさにそれなのかもしれない。光を遮り、自分にとって都合のいい世界に身を置く。でも、そこから抜け出せないこと自体が、また別の苦しみを生んでいる。
人間はどこまで現実から目を背けることができるのか。そして、自分を守るためについた嘘は、いつから自分を壊し始めるのか。
読み終えても、簡単には答えが出てこない。そんな後味まで含めて、実に中村文則らしい一冊だった。

