あらすじ
3年前の事件が原因で警察を辞め、妻とも離婚し、娘の梓とも離れて暮らす朝倉真志。
すべてを失い、自暴自棄な日々を送っていた真志の元妻のもとに、ある日、娘が誘拐されたことを告げる匿名の電話がかかってくる。
娘を救うために動き出した真志。しかし、事件を追ううちに、誘拐事件は自分の人生を狂わせた3年前の事件へと繋がっていく。
警察を辞めた男が、娘を救うために真相を追う。過去の事件に隠された秘密と、次々に展開する予想外の出来事が絡み合う、ノンストップのエンターテインメント作品。
感想
さすが薬丸岳!
薬丸岳にハズレなし!
もう、このひと言に尽きる。
これまで何冊も薬丸岳の作品を読んできたけれど、今回も一気に読めた。やっぱりこの人の文章は僕に合うんだよなぁ。
薬丸岳といえば、犯罪や加害者・被害者の問題など、重いテーマを扱った作品が多い印象がある。
もちろん、そういう作品も大好きだ。
でも、本作はちょっと違う。
社会的なテーマを扱いながらも、かなりエンターテインメントに振り切っている。
次々に起こる出来事。複雑に絡み合う人間関係。そして、先が気になって仕方がない展開。
「ちょっとだけ読もう」と思っていたのに、気づけばどんどんページが進んでいる。
こういう作品も嫌いじゃない。いや、むしろ好きだ。
それから、登場人物のキャラクターがとても立っているのもいい。
それぞれに事情や思惑があって、単純に善人・悪人と割り切れない。誰を信じればいいのか、何が本当なのか。そんなことを考えながら読み進めるのも楽しかった。
そして、最後。
いやぁ……泣いた。
まさか、こんなに涙腺を刺激されるとは思わなかった。
ここまで勢いよく読ませておいて、最後にこれを持ってくるか。
ただ謎が解けてスッキリ、というだけじゃない。読み終えたときに、ちゃんと心に残るものがある。
やっぱり薬丸岳はすごい。
重いテーマをじっくり描く作品もいいけれど、こういうエンターテインメント作品でも、しっかり読者の心を掴んでくる。
面白い。読みやすい。そして最後には泣かされる。
今回も大満足の一冊だった。
考察
本作を読んで考えさせられたのは、過去の過ちによって失ったものを、人はもう一度取り戻せるのか、ということだ。
主人公の真志は、3年前の事件によって警察官としての立場を失い、家族との関係も壊れてしまった。
一度失った信頼は、簡単には戻らない。
どれだけ後悔しても、過去に起きたことをなかったことにはできないし、自分が許されたいと思ったからといって、相手が許してくれるわけでもない。
それでも、人は生きていかなければならない。
では、過去の過ちを抱えた人間に、やり直す資格はあるのだろうか。
僕は、過去をなかったことにするのと、過去を背負いながら生き直すことは、まったく別の話だと思う。
大切なのは、過ちを犯した事実から逃げず、その後どう生きるかということなのかもしれない。
そして、本作では「正義」というものについても考えさせられる。
警察という組織が必ずしも正しいとは限らない。立場や組織を守るために、真実が隠されてしまうことだってある。
正しいことをするためには、組織のルールに従うべきなのか。それとも、ルールから外れてでも真実を追うべきなのか。
簡単に答えが出る問題ではない。
ただ、ひとつ確かなのは、組織の都合と、一人ひとりの人間が抱える思いは、必ずしも一致しないということだ。
そして、そんな複雑な状況の中でも、人間は誰かを信じたり、疑ったり、もう一度関係を築こうとしたりする。
本作が単なる誘拐サスペンスで終わらないのは、事件の謎を追うだけでなく、そうした人間同士の繋がりまで描いているからだと思う。
真相を知ることと、誰かを理解することは同じではない。
過去に何があったのかを知ったとしても、それだけですべてを許せるわけではない。それでも、相手の事情を知ろうとすることには意味がある。
そんな人間関係の難しさと、それでも誰かと繋がろうとすることの大切さが、本作の根底にあるように感じた。
重厚な社会派ミステリーとはひと味違う、スピード感のある物語。
でも、その中に薬丸岳らしい人間へのまなざしがちゃんとある。
だからこそ、最後にあれだけ心を揺さぶられたのだと思う。
やっぱり薬丸岳にハズレなし。
次もまた、薬丸岳の作品を読みたくなってしまう。

