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そして殺人者は野に放たれる|日垣隆 を読んで

日垣隆 著「そして殺人者は野に放たれる」 ノンフィクション

長らく積読状態にあった本。
ノンフィクションではあるが、どうやら一つの事件に的を絞った作品ではないっぽい。
いろんな事件について書かれている作品らしい。
第三回新潮ドキュメント賞受賞作品。
さてどんな意図が読み取れるのか。

あらすじ
「心神喪失」の名の下で、あの殺人者が戻ってくる! 「テレビがうるさい」と二世帯五人を惨殺した学生や、お受験苦から我が子三人を絞殺した母親が、罪に問われない異常な日本。“人権”を唱えて精神障害者の犯罪報道をタブー視するメディア、その傍らで放置される障害者、そして、空虚な判例を重ねる司法の思考停止に正面から切り込む渾身のリポート。

感想
本書は刑法39条の不合理性を問う書であった。

刑法39条
1.心神喪失者の行為は、罰しない。
2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

この条文が如何に危険で、無責任で不誠実な条文なのか。
様々な事件を参考に、この39条の奇妙な存在を紐解く。

薬丸岳が大好きな僕は、彼の作品の中で刑法39条を扱った作品もあって、多少の知識はある。
また、昔刑法39錠を扱った「39」という映画を観た記憶がぼんやりあるが、あまり内容を覚えていない。

そんな知識で、39条は被害者を無視した歪な存在、として捉えている。
しかし、人権という側面から考えると39条は必要な条文で、フィクションの世界だけでその存在が悲劇を生むのだと思っていた。

ところが、だ。
本書を読む限り、その悲劇は物語の世界だけではなく、現実の世界でも多くの悲劇を生んでいることを知った。
なんと多くの犯罪者が心神喪失、または心神耗弱を理由に無罪、または減刑されているというのだ。
その数は想像を絶する件数である。
ほとんどの犯罪が39条を盾にし、無罪や減刑されている。

例えば酩酊状態で人を殺めた場合。
シンナーを吸ってフラフラの状態で人を殺めた場合。
薬物で思考を手英詩させた状態で人を殺めた場合。
にっちもさっちもいかない状態になって判断能力を失って人を殺めた場合。
これらの事件が39条を盾に無罪放免になっている事例が数多く紹介されている。

これでは正常人が殺人を犯すことなどほぼ無いように思えるほどである。

被害者意識が全くないと言われる法曹界。
加害者側だけが人権を手厚く守られ、知識のある奴は責任無能力者を偽り無罪を勝ちとり、何度も繰り返して法を犯す。
そして事件は「無かったこと」にされる。
亡くなった被害者は浮かばれない。
たまったもんじゃない。

読み進めれば読み進むほど、腹が煮えくりかえってくるほどである。

39条をなくせと強くは言わない。
ただ乱用はしてほしくない。
特に「心神耗弱」の定義付けをしっかりし、簡単に無罪にするのではなく専門の治療施設を作るべきだと強く願う。

書かれていることは「もしかしたら危険な思想なのか?」と感じる部分もありつつ、うなづけることも多く、知識として知っておいて損はない情報であり、かなり硬派な書であった。

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